先斗町ひとり歩き
煮詰まってくるとひとり旅に出る。
10年近く前になるが、急に取れた夏休みを使って京都へ行った。よく訪れる大好きな街、大抵ガシガシ徒歩で巡るのでオシャレというより動きやすい服装が多い。その時は思い立っていつものカジュアルな服と靴はキャリーバッグの中に忍ばせ、ヒールにエレガントな服で行ってみた。
何だかそんな気分だった。お化粧もきちんとして、マスカラも重ねづけ。
着いたのが夕方近く、ホテルで一休みしてから地下鉄で移動。とりあえずお酒を楽しみながら美味しいご飯をゆっくり食べたい。
あらかじめ調べておいた、一見さんの女性一人でも気軽に入れておばんざいが美味しいというお店を目指す。開店時間にはまだ少し早かったので、先斗町界隈をそぞろ歩いた。
京都の古い街並みを歩くとホッとする。懐かしいような気持ちにさえなる。
個性のない現代的なピカピカな建物に建て替えて、どこに来ているのかも分からないような街並みが日本中に溢れていて残念過ぎる。観光立国を目指しているのなら、日本っぽい日本情緒溢れる建物を増やせばいいのになあ…。
散歩で適度にお腹が空き、いい時間になったので先斗町の小道に入る。川床も良かったなあ、でも一人で川床なんて変かな?
ヒールの音をさせながら歩いているとサラリーマン風の男性が声をかけて来た。
「xxxっていうお店、知っていますか?」
あら、地元の人と思われたのかしら。。なんだか嬉しいぞ。だが残念ながら京女ではないので、分からないと答えると
「これから出勤?どこのお店?」
と距離を詰めて来た。
え???
よく分からないが、違いますと去ろうとすると
「貴女がいるなら行きたいなあ。なんていうお店?」と重ねて近寄って来る。
んんん?あーそうか!先斗町って女性が隣に座るようなクラブもあるんでした。
そこに勤めている女性だと思っているらしい。いえいえ違いますと歩き出すと、後ろからさらに誘う声が追って来たので無視して足早に行く。
歩きながら、えーー何でーー??お水の女性に間違われるなんて初めてのこと。ってか、華やかな化粧も服装も髪型もしてないし、ましてや美人でもなんでもないので驚きしかない。
でもわたしの中で、水商売の女性=魅力的で美人っていう定義があるので、ちょっと誇らしげな嬉しいような気持ちになった。わたし、意外とイケてる??旅先の開放感で、華やかなオーラでも出ちゃってた?笑
ちょっとニヤつきながらお目当の店に着き、カウンターに座りおばんざいと鱧で一杯。お酒で気持ちがほぐれるとふと気づいた。
あーあれは新手のナンパだったのだな。笑
出張のサラリーマンっぽかったから、旅の恥はかき捨てでちょっと遊びたかったのかも。
自分の勘違いに、ちょっと苦笑い。
冷酒はすっきり辛口で、ほんのり甘く、京都の夜はまだ宵の口。